跡部部長。俺が最も超えたいと思っている相手――つまり、下剋上をしてやりたいと思っている相手だ。
中等部時代から、部活で1度も勝てたことがない。だから、高等部では絶対に勝ってやる。そう思って、俺はまたテニスをしている。そして、今日。久々に跡部部長と試合をすることになった。よし。今日こそ・・・。
そう意気込んで、コートの向かい側に立っている跡部部長を見ると・・・。
「おい、!」
「はい!」
マネージャーのを大声で呼んだ。そして、は返事だけして、そそくさとドリンクを持ってきた。
・・・なんで、「ドリンクくれ」とか言わねぇんだよ。しかも、もだ。いくらマネージャーは気が利かなければいけないとは言え、そんな夫婦みたいなことはしなくていい。
そう思ったのは、俺だけではないらしく、コートの周囲で試合を見に来ていた跡部部長のファンたちがざわつき始めた。
だが、を悪く思う奴に共感なんか、したくねぇ。そのためにも、跡部部長に下剋上してやらなければならない。
そう思って、跡部部長を睨む。
「はい、どうぞ。」
がドリンクを渡し、跡部部長は何も言わずに、それを受け取った。・・・部長とは言え、礼ぐらい言うのが礼儀ってもんだ。なんて、思っていたら。跡部部長がの頭をポンポンと軽く叩いて、ドリンクを返した。
「・・・し、失礼します!」
周りの跡部部長ファンがもっとざわつく。と言うか、もう奇声に近い音が聞こえてくる。・・・うるせぇ。
しかも、も顔を真っ赤にして、跡部部長の傍から離れた。そんなんだから、誤解されんだよ。
無性にイライラしていると、今度はが俺の方へ走ってきた。
「はい、ドリンク。」
・・・だから、何も言ってねぇのに、そんなことしなくていいんだよ。・・・・・・とは言えない。試合前に水分は補給しておかなければならない。
「助かる。」
俺はそれだけ言って、喉の渇きを潤し、ドリンクを返した。
「マネージャーだから、えこ贔屓はできないけど。応援してるね。頑張って。」
は俺からドリンクを受け取ると、俺にこっそりそう言って、立ち去った。
少し嬉しくなりそうになったが、贔屓はできないということは、跡部部長にも言っているのだろうと冷静に思った。・・・しかし。もっと冷静に思い返せば、は(許せないことに)跡部部長に頭を撫でられた後、急いで立ち去っていた。つまり、こんなことを言う暇は無かったはずだ。・・・じゃ、これは俺だけに・・・・・・?
と、とにかく。今は試合に集中しようと、ネットまで近寄り、目の前の跡部部長に言った。
「よろしくお願いします。」
「おう。」
跡部部長がそう言って、サーブ権のトスが行われた。・・・絶対に下剋上してやる。
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今日の相手は日吉か。コイツは「下剋上」とか言って、昔から俺に勝とうとしていた。・・・そういう奴は嫌いじゃない。鍛え甲斐があるってもんだ。案の定、試合の始まっていない今も、目だけで俺に攻撃してやがる。・・・もう少し、本気を出させてやるか。
そう思って、俺はマネージャーのを大声で呼んだ。
「おい、!」
「はい!」
すると、は返事だけして、そそくさとドリンクを持ってきた。俺様の計算通りだ。
は中学時代に立海でマネージャーをしていたらしく、よく働く。ゆえに、何も言わなくても、こうしてドリンクを持ってくる。
ま、傍から見れば、「おい」とだけ言えばお茶を用意する、昔に言われていた『理想の夫婦』なんかに見えなくも無い。
だから、こっちを見ている日吉の目が一層キツくなった。
・・・ホント、こんなにわかりやすいっつーのに、自分では隠しているつもりなんだから、面白い。
「はい、どうぞ。」
がドリンクを渡し、俺は何も言わずに、それを受け取った。
・・・そうだな。素直じゃねぇ日吉には、もう少し遊ばせてもらうか。
そう思って、俺は「ご苦労だった」の意味を込めて、の頭をポンポンと軽く叩いて、ドリンクを返した。
「・・・し、失礼します!」
は顔を真っ赤にして、もう1つのドリンクを取りに行った。
好きな日吉の前で、こんなことされちゃあマズイってことで、も急いで立ち去ったんだろう。には悪いことをしたが、それは素直じゃない日吉に言ってくれ。
「はい、ドリンク。」
は、同じように・・・いや、違うか。何も言われてもいない日吉にドリンクを渡した。
おそらく、本当は俺よりも先に渡したかったのかもしれねぇな。とは言え、俺が日吉より年上であり、部長であるため、おそらくは、俺が呼ばなくても、こちらに来ただろうが。
「助かる。」
日吉はそれだけ言って、ドリンクを飲み、そのまま返した。
おいおい、俺様を見てただろう?何か言うか、何かすればいいものを・・・。相変わらず、不器用な奴だな。
そんなことを思っていると、が日吉に近づいて、何かを言った。
一瞬、日吉の表情が嬉しそうになった。が、またいつもの仏頂面に戻った。そして、先程よりもやる気を持って、こちらに向かってきた。
「よろしくお願いします。」
「おう。」
が何を言ったかは知らないが、とにかく俺様の計画は上手くいき、より攻撃的になった日吉とトスをした。
ま、せいぜい惚れた女の前で、無様な姿を見せないように頑張るんだな、日吉。
まずは我らが部長、跡部様のご登場です!!(笑)ということで、始まりました、カウントダウン!blogでも説明させていただいたように、今日から1作品ずつ、出来うる限りアップしていきます。
そして、初日がこれだったわけですが・・・。こんなに張り切った企画をしても、結局は私の書く作品ですからね!(汗)今後も期待はせず、お付き合いいただければ、と思います・・・(苦笑)。
ちなみに、こちらのお題は、『Link』ページに貼らせていただいている、「下層階級」様よりいただきました。ありがとうございます!(←と、いつも直接は言えぬまま・・・/苦笑)
('09/11/05)